モジュールで構成するDC‑DCシステムの設計手法
第4回: 安全と保護の機能
Tutorial by
Jonathan Siegers / プリンシパル アプリケーションエンジニア
Vamshi Domudala / アプリケーションエンジニア
前回までのチュートリアルでは、電源モジュールを用いた電力供給ネットワーク(PDN)の設計で、実際に考慮すべき点 を詳細に示しました。適切なDC-DCモジュールの選択、モジュールの入出力フィルタ設計、システムの全体的な安定性の確保ができたところで、次は安全性の検討に入ります。性能や信頼性を損なうことなくシステムを致命的な故障から保障するためには、ヒューズとトランジェント抑制回路を追加する必要があります。
ヒューズの要件と機能
ヒューズの選択はまず、DC-DCモジュールメーカーが提供する資料で、安全機関の許可条件(CofAs)を確認します。最新の資料を確認して、安全機関のCofAsを確実に満たすように、ヒューズのタイプを選択します。
ヒューズはシステムの重要な安全機能であり、主に2つの機能があります。
- 過電流または短絡で生じる過熱による損傷の抑制
- 故障したサブシステムの切り離し
第一に、システムにヒューズが無い場合、重大な故障によって過熱損傷が起こると、極めて深刻な事態に陥ります。故障でどれぐらい電流が流れるかによりますが、プリント回路基板は黒焦げになり、すべての部品が完全に壊れる場合もあります。ヒューズは火災を防ぐだけでなく、障害が発生した際にシステムを延焼から守ることで、故障の解析にも役立ちます。第二に、ヒューズにより、故障したサブシステムをシステム全体から切り離すことで、システムダウンを防ぐことができます。
ヒューズが両方の機能を十分に発揮し、安全機関の要件を満たすためには、各電源モジュールの入力側にそれぞれヒューズを配置する必要があります。図2のシステムでは、非絶縁型PoLコンバータ、またはそれに関連する入力回路のいずれかに障害が発生すると、対応するヒューズが切れ、システムの残りの部分は動作を継続できます。
ヒューズの選択
ヒューズを選択する際に最初に考慮すべき最も重要なパラメータは定格電流値です。定格電流値は、保護するシステムの最大連続動作電流値より大きくすることが重要です。レギュレーション機能のあるDC-DCモジュールは、連続動作電流値が最大になる条件は、入力電圧が最小かつ負荷が最大です。最大連続動作電流値を正確に求めるためには、この条件とモジュールの変換効率を考慮します。
ヒューズの定格電流値を算出する際に、ヒューズメーカーは通常、25~50%のディレーティングを推奨します。これは一般的なヒューズの経年劣化を考慮したものですが、頻繁にヒューズが切れて交換作業が発生しないようにするためでもあります。
ヒューズの定格電流値を求めたら、次はシステムが動作する環境条件を検討します。ヒューズメーカーのデータシートには、図3のような温度によるディレーティングチャートがあります。アプリケーションと想定する周囲環境温度によっては、ヒューズの定格電流値を調整する必要があります。
ヒューズメーカーが示す定格電流値は、周囲温度約25℃の常温を基準としていますが、周囲温度が高くなるとヒューズの実質の定格電流値は低くなります。温度が25℃を超える場合は、ヒューズがトリップする電流値が低下するため、このチャートでディレーティングして、システムには定格電流値が高いヒューズを設定することになります。温度が低い場合も同様の再計算を行います。周囲温度が通常25℃以下の場合は、それに応じて定格電流値の低いヒューズを選択します。
定格電圧値も、安全上重要な項目です。ヒューズがトリップしたときに回路を確実に切ることで、アーク放電によるシステムの損傷を防ぎます。ヒューズのDC電圧定格値は、システムが許容できる最大電圧に合わせて選びます。つまり、アプリケーションの最大電圧と同じか、それ以上でなければなりません。
次に、ヒューズの最大遮断定格電流、すなわち遮断容量を検討します。保護する回路の最大短絡電流と同じかそれ以上にする必要があり、定格電圧で過負荷状態の時にヒューズが遮断する最大故障電流値のことです。このように設定することで、過電流の際にヒューズ自体のパッケージが破損することなく、システムから障害部分を切り離すことができます。ヒューズが切れるときにヒューズのパッケージが損傷するような故障は、隣接する他の部品も損傷する可能性が高いため、危険な故障モードと言えます。
ヒューズの定格電圧および遮断電流の仕様は、アプリケーションがACシステムかDCシステムかにより異なる場合があるので注意してください。ヒューズのデータシートの仕様をよく読んで理解しましょう。
公称溶断 I2t 値
次に、想定する事象のうちヒューズが作動すべきではないものに対応できるように、ヒューズの公称溶断 I2t 値を検討します。例えば、DC-DCシステムは起動時にコンデンサを充電するため、大きな突入電流が流れる場合があります。こうしたピーク電流は、システム外部の過渡現象によって発生する場合もあります。
ヒューズの公称溶断 I2t 値は、ヒューズ内部のエレメントを溶断する熱エネルギーを示します。例えば、DC-DCコンバータのアプリケーションでは、パルス電流の過負荷は頻繁に発生し、実際に選択したヒューズの定格電流値を超えることがあります。
このエネルギーの値を求め、適切なヒューズを選択するために、発生し得る電流波形とそのエネルギーをジュール単位で考えます。図4は、2つの代表的な波形と、それぞれのパルスの I2t を示しています。ここで求めるエネルギー量でヒューズがトリップしないように、この値より大きい定格の I2t 値のヒューズを選びます。
加わるサージパルスの回数が多い場合には、設計のマージンを増やしてシステムが寿命に達するまでのヒューズ交換を減らすために、パルスファクターを用います。波形から算出した I2t 値にPF値を掛けた値を実質の I2t 値として検討します。
ヒューズに関するその他の検討事項
電源システムのヒューズを設計する際に考慮すべき重要な点は他にもあります。その中でも特に気を付けるべきものは以下です。
- ヒューズが切れた状態でも低い電位への接続が保たれるように、ヒューズはグラウンドでない側に取り付けるべきです。
- 最新の冷却ソリューションでは、ヒューズ取り付け位置を変える必要があります。たとえば、液体浸漬冷却では、ヒューズを浸漬してはいけません。ヒューズエレメントの温度が冷却液の影響を受けると、過負荷状態でも温度上昇が十分でなくヒューズが切れない可能性があるためです。
- 使用するヒューズのサイズや定格にもよりますが、通電する導体やPCB配線の太さは、ヒューズの定格電流の150~200%を安全に通電できるようにする必要があります。また、適用される安全規格に応じて、許される温度上昇も考慮します。
- 2つの電源を直列接続して、その接続点を共通グラウンドとし、出力のプラス/マイナス配線によって、後段の1つの電源に給電する場合、プラスとマイナスの両方の端子を別々のヒューズで保護する必要があります。この場合は、プラス/マイナスのどちらのも線間地絡が発生する可能性があるため、両側の保護が必要です。
トランジェント抑制回路
全ての用途で、電源モジュールは寿命までの間に、悪い環境で運用されることがあります。特に電源システムや電源モジュールは、通常の動作範囲を超えるサージやスパイクに耐えることが必要です。
スパイクやサージは通常、誘導性負荷のスイッチング、システム内のモータの速度の変化、障害の切り離し、そして電力の瞬断によって発生します。スパイクの過渡現象は、通常ごく短い間ですが、電圧ピークは極めて高くなることがあります。一方サージのピーク電圧はやや低いものの、長時間にわたり持続することがあります。
スパイクとサージに対応するためには、アプリケーションのタイプと、これらのトランジェントを規定するすべての規格要件を考慮します。それらの数値が分かれば、図6に示すような2段階保護回路を設計して、電源モジュールの入力部に配置します。
1段目は、過渡電圧サプレッサ(TVS)ダイオードを使用し、100μsオーダーの高速トランジェントエネルギーを減衰してスパイクを抑制します。これにより、高電圧・低エネルギーのスパイクから保護します。後段に接続されてるLCフィルタによりエネルギーが積分されます。
TVSダイオードを選択する際に考慮すべき4つの主なパラメータがあります。ダイオードの最大逆方向動作で夏、逆方向降伏電圧、クランプ電圧、ピークパルス電流です。ダイオードの逆方向動作電圧 (VR) は DC-DCコンバータの動作範囲内でなければなりません。そして、保護される回路の最大動作電圧はTVSダイオードの逆方向降伏電圧を超えてはいけません。2つの閾値電圧である、逆方向降伏電圧とクランプ電圧で、TVSダイオードの動作が決まります。これらの閾値はどちらもDC-DCモジュールが許容できる最大瞬間電圧以下である必要があります。逆方向降伏電圧の閾値は通常、VR の110 ~ 115% ですが、ここでTVSダイオードがアバランシェ降伏に入り、トランジェントエネルギーを短絡します。ダイオードに大きな電流が流れた場合は、さらに高い閾値(一般的にはVR の130 ~ 140%) でクランプされます。最後に、TVSダイオードが耐えられる最大電流であるピークパルス電流定格を検討します。
トランジェント抑制回路の2段目は、長時間続くサージに対応します。直列のFETはリニア電圧レギュレータとして機能し、モジュールの入力電圧を許容範囲内にアクティブにクランプします。このEFTの選択も、モジュールの入力電圧範囲に依存します。
FETを完全にOFFする場合は、サージ電圧のピーク電圧に耐える定格のFETを選びます。また、通常動作時のモジュールの最大入力電流が流れるON定格のものを選ぶ必要があります。FETは、最大負荷電流に対応する入力電流が流れるため、電力損失を最小にするために、可能な限り RDS(ON) を低くします。最後に、FETが動作するときのクランプ条件に対して、安全動作領域(SOA)と過渡熱抵抗を求めて評価します。
まとめ
システムを構築して、保護回路が完了したところで、次はDC-DCモジュールが給電する、負荷についての検討事項です。次回のチュートリアル では、負荷について特に気を付けるべき点を解説します。
DC-DCチュートリアルシリーズ
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